参院選を機に考える「シルバー民主主義」

参院選を機に考える「シルバー民主主義」

参院選を機に考える「シルバー民主主義」

先日、第25回参議院議員通常選挙の投開票が行われました。医師資格保持者は8人が立候補して、古川俊治氏(自民党、埼玉)、羽生田たかし氏(自民党、比例)、小池晃氏(日本共産党、比例)梅村聡氏(日本維新の会、比例)の4人が当選しました。医療関係の議員としてトップ当選」は、日本看護連盟組織内候補の石田昌宏氏の18万9893票(自民党比例12位)という結果でした。医師が政治家を志すケースが増えているとも言われていますが、医師であり政治家であることの意義は何でしょうか。私は、少子高齢化社会、地方住民のリアリティーを肌感覚で知っていること、基礎研究や臨床の経験に基づく、判断基準、人間理解には深い洞察があることではないかと思っています。歴史を紐解けば、チェゲバラ、孫文、今井澄も医師であり、歴史に名を残した偉大な政治家でした。今回、当選された方々には、地域医療、介護、福祉などの提供体制をより充実したものにしていただくことを切に願っています。

さて、今回は、選挙に関連して「シルバー民主主義」を取り上げてみたいと思います。非常に難しい問題ですが、一緒に考えていただければ嬉しく思います。

◆シルバー民主主義とは

高齢者を優遇している制度のことをシルバー民主主義と言います。政治家の立場で考えれば、『高齢者を優遇した方が、選挙に勝ちやすい』という事を意味します。つまり、高齢社会の民主主義では、政治家は高齢者を優遇するような政策を進めてしまう傾向にあると言われています。例えば、前回の参院選では、参院選前に、年金生活者等支援臨時福祉給付金(低所得の高齢者に対し、3万円給付/1人)が可決されました。因みに、年金の株価運用での莫大な損失発表は、選挙後に行われました。とても分かり易い選挙対策ですね。

◆若い人ほど大損?「財政的幼児虐待」

各世代の個々人が生涯を通じて、政府に対して税や保険料といった形でどれだけの負担をし、年金、医療、介護といった公共サービスからどれだけの受益を得るかを推計する手法を『世代会計』と言います。
法政大学の法政大学教授の小黒氏によれば、今の政策がそのまま続くとすると、この生涯負担から生涯受益を差し引いた『純負担』は、90歳の世代でマイナス2604万円(受益が負担を上回る)だったのに対し、0歳は2662万円(負担が受益を上回る)、将来世代は7540万円(同)と試算しています。つまり『孫は祖父母より1億円も損をする』という世代間格差があります。

民主主義の構造的な問題

1人1票の権利がある民主主義は、構造的な問題を抱えています。「自分にとってメリットのある政策を実施してくれる政治家に投票をすることが当たり前」となっているのがその理由です。このような投票の仕方をしてしまうと、前述のように高齢化社会ではシルバー民主主義という弊害が生じてしまいます。「自分にとってはデメリットとなるが、日本全体のことを考えればこの政治家に投票すべき」という考え方で投票すれば、この構造的な問題は生じません。国民全員が、このような考え方で投票できるのであれば、高齢者も長い人生の経験に基づいて、長期的な観点で日本全体にとって良い政策を実施してくれる政治家に票を投じてくれることと思われますが、現実的には、なかなか難しいのではないでしょうか。。

◆シルバー民主主義の解決策は?

方法論レベルでは様々なアイデアが出されています。例えば、一票の重みを余命によってウェイト付けする、世代毎に定数を決めて議員を選出する、有権者の投票行為を義務化するなどがあります。しかし、従来どおりの意思決定プロセス(選挙によって有権者の承認を得る)を採用し続ける限りは、高齢者層の不利益に繋がる施策については、それを掲げる政治家や政党が信任を得ることは難しいというジレンマが発生します。
楽観的な見方として、「高齢者の全員が自己中心的だと限らない」、「日本の高齢者層が、頑迷で自己中心的だとは限らない」、「孫の顔が描かれているクレジットカードを使っていると思えば社会保障のマイナスも受け入れるはずだ」、「目先の損を嫌えば、早期の制度崩壊を招き、高齢者が存命の間に自分が不利益を被ることになることを知れば、損得の上からも同意を得られる」など状況打開のための正論を述べる専門家もいます。
しかし、正論と同意を得ることは全く別の話です。正論だけど、同意しない、できないことは、皆様も多く場面で経験されているのではないでしょうか。世の理として、「何を語るか」より「誰が語るか」で、ものごとが大きく動くことが多く、カリスマ性を備えた強いリーダーが変革していくかもしれませんが、政治が近視眼的な民意に席巻される今、数の論理を超えて、「民意を尊重すること」と「民意を遮ること」とをどのように調和させ、サステナブルな社会をいかに実現させていくか、難しいかじ取りが迫られています。