在宅医療における精神疾患への介入~不合理の合理性~

在宅医療における精神疾患への介入~不合理の合理性~

在宅医療における精神疾患への介入~不合理の合理性~

在宅医療の現場に於いて、精神疾患を抱える患者様とそれに付随する課題は非常に多様化してきています。当院も2月に精神科の在宅医を新たに一名増員し、関係者様から提起された地域の課題を、ひとつひとつ解決していけるよう全力で取り組んでおります。私たちはこれから在宅の現場でどのように精神疾患と向き合っていくべきなのか。今回は、在宅医療における精神疾患とサービスモデルの醸成という視点からお伝えさせていただきます。

在宅で遭遇する事が予想される精神疾患

皆様が在宅で遭遇する機会が多い精神疾患として、最も多いのは認知症でしょうが、他にはどのような疾患があるのでしょうか。国際疾病分類(ICD-10)の「精神及び行動の障害(F00~F99)」の内、在宅での遭遇が予想される精神疾患をご紹介させて頂きます。
1. 症状性を含む器質性精神疾患(F00 ~F09)
認知症(F00)、せん妄、アルコールその他の精神作用物質によらないもの(F05)
2. 精神作用物質使用による精神及び行動の障害(F10~F19)
アルコール使用による精神及び行動の障害(F10)
3.統合失調症、統合失調症型障害及び妄想性障害(F20~F29)
統合失調症(F20)
4.気分(感情)障害(F30~F39)
双極性感情障害(躁鬱病)(F31)、うつ病(F32)
5.神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(F40~F48)
恐怖症性不安障害(F40)、その他の不安障害(F41)、強迫性障害(F42)、身体表現性障害(F43)
6.生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群(F50~F59)
摂食障害(F50)、非器質性睡眠障害(F51)

この他にも、知的障害、心理的発達の障害なども遭遇の可能性があります。

認知症やせん妄については、多くの在宅医による豊富な実践と研究の蓄積がありますが、一方で、その他の精神疾患に対しての在宅医療についてはそれらが極端に少ないのが現状です。

統合失調症への関わり

統合失調症は幻覚や妄想などの症状が特徴的な精神疾患です。100人に1人弱が発症されるとされています。以前は「精神分裂症」と言われていました。遺伝的要素、神経伝達物質の不調、ストレスなど仮説はありますが、発症の原因ははっきりとはわかっていません。
思考障害、知覚障害などの「陽性症状」、感情の障害、意欲低下などの「陰性症状」、認知機能障碍などの「その他の症状」の3つの症状があります。
東京武蔵野病院の医師、蜂矢英彦氏は統合失調症を「疾病と障害の共存」とし、医療の対象だけではなく、リハビリテーションと福祉の対象としても捉える考えを提唱しました。彼の考えは、医療・福祉一体型サービスの提供が統合失調症ケアの中核部分をなすことが理想的であることを示唆しています。
また、東京のこころのホームクリニック世田谷院長の高野洋輔氏が精神科在宅医療についてのインタビュー内で、統合失調症患者への介入について、薬物療法による症状の軽減だけではなく、その方の生活史や家族の中で受け継がれる価値意識を理解することの重要性についてお話をされています。
在宅ケアにおける統合失調症への関わりは症状の傾向に合わせた抗精神病薬の投与が基本となり、服薬が困難な場合は入院加療へとつないでいくことが一般的です。
しかしながら、それはあくまでも「基本」であり、言い方を変えるなら「当然やるべきことの一つ」であるとも言えます。それだけでは精神疾患患者への介入として十分とはいえません。

ACT(Assertive Community Treatment)について

ACTとは重い精神障害を持つ人が、住み慣れた場所で安心して暮らしていけるように、様々な職種の専門家から構成されるチームが支援を提供するプログラムです。先ほどお名前を出した二人の考えは基本的な加療から一歩踏み込んだ、ACT(アクト/Assertive Community Treatment:積極的地域医療または包括型地域生活支援プログラム)に寄り添った考えであると言えます。
ACTプログラムにおいては「地域を中心とすること」を大切にしています。精神の病を経験している方が病院や施設の中ではなく「地域での生活を中心とすること」を当たり前とし、入院は急性期の治療の為の例外的な「緊急避難」として共通認識されるべきだとしています。
ACTを実践する事で、生活の乱れから症状を再燃させて再入院に至ることを防止する事や、長期入院患者の地域への移行の促進、病識が乏しく自発的に医療機関に行くことが困難な未治療・治療中断者の治療契機となる事が期待されます。ACTチームは現在は全国に10数か所存在し、新たに数か所が立ち上げ準備をしています。日本でACTチームが必要な数は1200か所とも言われていますので、まだまだ少ないのが現状です。

これから必要とされるサービスモデルとは

現在の日本に於いて、精神病床数の削減、長期入院の短期化施策は計画通り進んでいるとはいえないのが現状です。2004年に精神保健医療福祉の改革ビジョンで「入院医療中心から地域生活中心へ」との理念が示され、「受入条件が整えば退院可能な者約7万人について、10年後の解消を図る」としていたが、33万人が29万人に減ったにすぎません。つまり、目標値の半分強、4万人減った程度でした。
元東京都知事の猪瀬さんは、入院患者が微減に留まっている背景には、「ハンセン病問題」と同根の考え方、19世紀から始まる隔離収容政策に言及し、通常の一般医療なら月額入院費100万円のところ、精神科月額入院費は約45万円と保険点数が低い。ベッド数を多くして「薄利多売」ビジネスモデルにあると指摘し、そのうえで、病床数が半分強にとどまった理由として、在宅サービスの支援体制の受け皿が少ないことに言及し、出口戦略の必要性としています。
では、出口戦略として、在宅医療の視座から、どのようなサービス提供を今後目指していくべきなのでしょうか。

まず、地域の皆様からよく聞く課題として、在宅医療の領域で精神科を診ることができる医師を探すことが困難だということが挙げられます。総合診療医として、精神患者さんの症例についても経験豊富な医師であれば対応可能ですが、希少な存在のため、診られる患者さんの数については限りがあります。提供できるリソースが不足している場合は、組み合わせで補うことが考えられます。在宅医療で10年以上、臨床数1000人以上で一定水準以上の患者さんの満足度を得られる医師であれば、マネジメントの立場から関わり、地域リソースを最大化する。あるいは、精神科の専門医を訪問のチームに加え、コンサルの立場から精神科医に介入してもらう方法が考えられます。

また、多職種が連携して訪問するチームとして考えた場合は、高野洋輔氏の考えが参考になります。『生活臨床』(症状や問題行動に捉われず、患者さんの生活行動から価値意識を特定し、生活の中で実現していくアプローチ)を支援の基本に据え、医師だけではなく多職種で患者さんを支えていくことが重要です。ポイントは、多職種のそれぞれの自主性と主体性。「医師の指示に基づいて行動する」という考えから脱却し、「医師と対等にコミュニケーションをとること」を指摘しています。一つ事例をご紹介します。(「ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由」 酒井譲)

「16時の徘徊」の合理性
毎日16時になると外へ出ていってしまう認知症の患者さん、いわゆる「徘徊」です。息子さんが外出を止めようとすると、母親はわめき、暴力をふるう日々が続く。息子さんが尋ねます。

「母さん、どうして毎日16時に外出しようとするの?」

尋ねてもはっきりとした返事はない。
どうすることもできなくなり、彼はベテランのCMに相談した。
するとベテランCMは兄を思ったのか母親の兄に連絡を取った。
そして「16時」というキーワードで何かヒントはないかを尋ねる。

すると、「16時」とは幼かったころの息子が幼稚園からバスで帰ってくる時間ではないかという。

その話を聞いたCMは、母親にこう告げた。

「今日は息子さん、幼稚園のお泊り会で、帰ってきませんよ。バスも今日は来ませんよ」

おまけにニセモノの「お泊り会」の案内状まで作って患者さんにみせた。

すると、どうだろう、母親は

「そうだったかね?」といって部屋に戻っていった。

その日境に、同じように「今日は帰ってきませんよ」という説明をしてあげるだけで、「16時に外へ出て行ってしまう」という行為はなくなった。

このベテランCMは「徘徊」というキーワードから不合理な振る舞いの中に隠されている合理性を正しく察知することができたのです。他人から見たら「徘徊」にすぎないのですが、このCMには、愛する息子に寂しい思いをさせたないための当然の行動だったのです。
それを止めようとする存在は悪であり、暴力をふるってでも戦うべき敵にみえていたとしても当然のことです。つまり、母親は「徘徊」という行為ではなく、「息子を迎えにいく」という物語の中を生きていたのです。

まとめ

今回は、在宅医療における精神疾患への介入に関してお話をさせて頂きました。在宅の現場では高齢化に伴い通院が困難になったケース、精神的な疾患に伴い家族間の関係が悪化しているケース、がん末期における抑うつや不安状態により精神的な介入が必要なケースなど、精神疾患への介入が必要なケースは多岐に渡ります。
生活の視点と医療の視点の歯車がかみ合ったときに、よりよいサービスが実現できるでしょう。地道な取組として、多職種を交えての事例検討の定例開催や、普段からお互いの顔を見ながらのコミュニケーションの時間を積み重ねていくしかありません。
出口戦略として、拡大という視点だけでなく、質を上げていくこと。地域という枠組みから心のケアに対してもひとひとりがしっかり課題意識を持ち、行動していく事が必要なのではないでしょうか。