続・続研究の話 RESEARCH

続・続・研究の話(コロナウィルス編)

2020年2月29日は、新築ちくさ病院開院式のご案内を郵送する日です。
内覧会は吉本興業から芸人さんも呼び、地域の皆さんをお呼びして夜店企画やビンゴ大会で盛大に盛り上がる企画を立てていました。 折も折、1月から始まった新型コロナウィルス感染は日本にも流行の兆しを見せはじめ、2月も下旬になると、感染拡大を懸念して、国内の催し物が取りやめになることが増えてきました。 開院式を断行するか、それとも止めるのか、止めるにしてもキャンセル料だけで数百万円かかる話でしたので最後まで悩みぬきましたが、結局、2月29日の朝、内覧会のご案内をポストに投函しようとする事務長の袖を引っ張り、中止を決断しました。

コロナウィルスの上陸

2020年1月7日、中国で流行している重症肺炎がコロナウィルスによってひきおこされていると判明し、1月23日には武漢市がロックダウンしました。 このニュースは、私もテレビで見てはいましたが、遠い異国の出来事として何の実感もわきませんでした。 道で前向きに倒れて死んでいる人の写真がネット経由で流布されていましたが、日頃、終末期医療に携わっている身としては「人間って、そんな簡単に死ぬのかね。」と半信半疑でした。 しかし、2月初旬にダイヤモンド・プリンセス号で集団感染が発生し、死者も発生するようになると、事態の深刻さを認識せざるを得ませんでした。

新型コロナウィルス感染症はSARS(呼吸促拍症候群)コロナウィルス2によって引き起こされる一連の症状を指す。
これまでにもSARSコロナウィルスは何度か流行していて、今回の新型コロナウィルス感染症は2019年に流行が始まったため、COVID(コロナウィルス感染症)19と呼ばれている。 電子顕微鏡で撮影すると、ウィルスの表面は太陽のコロナに似た構造物(スパイクタンパク質)に覆われていて、このためコロナウィルスと呼ばれている。

3月になると、いよいよ市中にも感染が広がり始め、非常事態宣言が発令され、日本中がパニックに陥り始めました。
「開院式も中止になっちゃったし、週末に温泉にでもいって、少しくつろごうか。」と三重県の鳥羽温泉に予約を入れましたが、出かける寸前になって、ホテルからキャンセルの電話がありました。 三重県知事の判断で休業要請があったというのです。 「三重県は感染者ゼロなのに、、、」とブツブツ言いながら、仕方なく、京都のホテルに予約を入れて京都へ向かいましたが、主だった寺社はほとんどがしまっており、市内は閑散としていました。 この時期は「千種区役所で感染者が一人でた!」とか、「愛知県の感染者が10人を超えた!」とか騒いでいましたので、今考えると、のどかな時代でした。

土地売却

2020年春の第一波は、「感染者がでた」とテレビで騒いでも、身の回りにはほとんど感染者がおらず、正直まだピンと来ませんでした。ただ、私にとってコロナ禍を実感する出来事が突然、襲ってきたのです。
ちくさ病院は2020年4月に新病棟が竣工し、旧病院は解体して、跡地を不動産業者に売却する手はずになっていました。 病院を新築すると、いくら費用がかかると思いますか?今回の新築移転では、合計20億円ほどかかりました。 建物を作るのに13億4千万円(プラス消費税)、土地4億円、旧病院解体費1億円、不動産に関わる税金・手数料などなど。 その費用は、これまでコツコツためてきたお金のなかから支払うわけですが、その中でも、旧病院の跡地売却から捻出する土地代金9億2千万円は、建築業者さんへの支払いに充てる予定でした。 ところが、4月になって土地を購入する予定だった不動産業者さんから突然、買い付けキャンセルの連絡が入ったのです。

万事休す、といったところですが、さして困りませんでした。
実は、感染拡大の報に接したとき、取引のある銀行から運転資金の名目で、10億円ほど掻き集めておいたのです。 このようなときはスピードが命で、その後、コロナ禍よって多くの医療機関の財務状況が悪化しましたが、経営が悪化してから借りに行くと、銀行はお金を貸してくれません。 パンデミックに怖気づくのは、不動産業者も銀行も同じだからです。 今回の取引では、不動産業者さんにも数千万円のキャンセル料が発生したはずですから、よほど怖かったのでしょう。 リーマンショックのとき、立て続けに不動産業者が倒産していくのを私も見ていましたから、その気持は分かります。 その後、病院跡地は使いみちもなく、しばらく宙ぶらりんの状態となりました。日経平均株価が大暴落して、不動産取引どころではなくなったからです。

その後、不動産業者さんが引き続き買い主を探してくれましたが、買い手はなかなか現れません。 事務長も「ひどい不況で、買い主が見つからんようです。」と報告してきましたが、売値は絶対に下げるな、と厳命しました。 政府・日銀による金融緩和が始まっていたからです。リーマンショックのとき、十分な金融緩和をせずに政権を失った経験から、今回の自民党は矢継ぎ早に手を打ってきました。 アメリカや中国に比べれば、規模も小さく、迫力も薄い政策ですが、それでも株価は急反発していきます。 この緩和マネーは、いずれ不動産取引にも入ってくるはずです。結局1年後、値札どおりの価格で土地を売却することができました。

第2波

梅雨時になると感染は次第に収束していきました。ウィルス感染は空気が乾燥していると広がりやすく湿度が高いと水平感染しにくい傾向があります。
これまでに世界的な流行となった過去のコロナウィルス感染(SARS、MERS)も夏には感染収束しています。トランプ大統領も「夏にはオバケのように消えて無くなる。」と言っていましたし、米国大統領のような偉い人は嘘つかないだろう、私もたかをくくっていました。 ところがどっこい、夏に第2波が来てしまったのです。このとき、私の外来に初めてコロナ感染の患者さんがやってきました。 糖尿病で通院中の方で、カラオケが大好き。数日前から咳が止まらない、というのです。

CTを撮影したところ、りっぱなCOVID肺炎がみつかり、大急ぎで国立名古屋医療センターを紹介しました。
自分の病院に入院させるわけにはいきません。 この時期、全国で衛生材料が不足していて、うちのような中小病院ではマスクや消毒用のアルコールにさえ事欠く有様だったからです。

出典:国立国際医療研究センター 忽那賢志先生作引用
新型コロナウィルスは糖尿病や高血圧、肥満などがあると重症化しやすい。
持病に成人病があると、活性酸素によって全身の細胞が傷つきやすく、その傷を癒すために、細胞表面にACE2受容体という膜タンパクが出現する。 コロナウィルスは、このACE2受容体を狙ってくるのだ。

新型コロナウィルスの構造
ウィルスの遺伝情報を抱えたRNAを脂質とタンパク質でできたエンベロープ(E)が包んでいるが、表面の突起(S)をスパイクタンパク質とよび、この突起が人間の細胞のACE2 受容体を狙っている。

第3波

その後、第2波は収束していきましたが、夏に第2波が来たということは、11月ごろには第3波がくるでしょう。
そして、それは、これまでより大きな波に違いありません。2020年秋には長期戦の覚悟を決めていました。 秋になるとようやく、我々の病院にもマスクや消毒用アルコールが届き始め、検査用の抗原検査キットもとどきました。 また、第3波が到来する頃にはPCR検査をする体制も整ってきました。 また、コロナ感染者を一般の患者さんと同じ部屋で診察するわけにはいきません。 病院の駐車場に足場を設けて、陰圧テントを張り、発熱外来としました。

年の瀬も押し詰まると、いよいよ感染は急拡大を始め、それに伴い、入院病床も逼迫してくるようになりました。
私達が在宅医療で見ている患者さんの中にも感染者が現れ、保健所に連絡しても、空きベッドがない、との理由で入院を断られるようになってきました。 そんな中、12月31日の大晦日にちくさ病院のコールセンターから私の携帯に連絡が入ります。 老人ホームにいる、入院待機中の在宅患者さんの酸素飽和度が下がってきた、というのです。 その老人ホームは年末にクラスターが発生し、一部の入居者は入院しましたが、他の入居者は収容しきれず、老人ホームで自宅待機の状態となっていました。 その中の一人の血液の酸素量が減ってきた、というのです。

こういった緊急往診の用件は、本来ならその日の当番の医師が処理する案件ですが、コロナの患者さんの往診は、医者も感染してしまう可能性があり、それを怖がる医師が職場放棄することも珍しくありません。
実際、ちくさ病院でも何人か医師の退職者が出ていましたので、コールセンターが気を利かして、私へ直接連絡してきたのです。 早速、老人ホームへ往診に行きましたが、病院と異なり、感染予防策が十分に施されている現場ではないので、少し覚悟が必要です。 この程度のことでコロナに感染して死んでしまうのなら、自分はしょせんその程度の人間だった、という割り切りです。 施設の玄関をくぐると、N95マスクとフェースガード、ガウンを着た職員が出迎えます。 密室のなかでも双方がマスクをしていれば濃厚接触者にはならないのですが、相手は認知症高齢者なので、苦しがってマスクをはずしてしまいます。 当然、こちらも宇宙人のような恰好で診察する必要があります。 さて、患者さんのお部屋へ入り、指に器械を挟んで酸素飽和度を測定すると88%しかありませんでした。

在宅医療でよく使用されるパルスオキシメーター
血液の中の酸素濃度を測定する装置。 100個の赤血球のうち、何個の赤血球に酸素がくっついているか、を現しており、健康な人間は普通、96%以上ある。

この数値が93%を切ると、入院させる決まりとなっているため、名古屋市の中保健所に入院依頼の電話をしましたが、案の定「コロナ病床は満床のため、入院できる病院はありません。」と断られてしまいました。
こうなると、入院できるのがいつになるのかわからないため、なんとかベッドが空くまで、患者さんを持たせないといけません。 そこで、酸素吸入を開始しようと、在宅酸素の業者さんに連絡を入れました。

在宅医療でよく使用されるパルスオキシメーターよく使用される酸素濃縮器と酸素ボンベ。
肺気腫など、呼吸機能の弱い患者さんが使用するもので、お部屋で暮らすときには左の酸素濃縮器を使用し、外出などのときには右の酸素ボンベをキャリアに乗せて持ち運ぶ。

在宅酸素の業者さんというのはたいしたもので、24時間365日、いつ電話をしても担当者に繋がります。
この人、いつ寝ているんだろう、もしかしてブラック企業?かもしれませんが、どんな深夜でも嫌な顔ひとつせず、酸素濃縮器や酸素ボンベを届けてくれます。
大晦日にも関わらず、その日もすぐに電話に出てくれました。大至急、酸素濃縮器を持ってきてもらうように頼みましたが、なんと、「濃縮器はお渡しできません。」と断られてしまいました。
コロナ陽性者に酸素濃縮器を貸し出すと、返却時に器械ごと破棄しなければならないのだそうです。 しかたなく、何とかボンベだけでも、とお願いして酸素ボンベを3本届けてもらいましたが、1分あたり1リットルの酸素吸入で10時間しか持たない、とのことでした。 3本で30時間が限界ということですが、今後呼吸困難がひどくなって、例えば、5リットル吸入させた場合、6時間しか持ちません。 一刻も早く入院ベッドが空きますように、と眠れない夜をすごしましたが、翌日保健所から連絡があり、なんとか入院までこぎつけることができました。

第4波

今思うと、2020年の年の瀬がコロナ第3波のピークであったと思います。
2021年の1月8日に非常事態宣言がだされて、次第に感染は終息傾向となりました。
しかし、このころから世界中で変異株の出現が報道されるようになり、第4波の到来は遠くないように感じられました。 次の襲来に備えて、戦いの準備を進めなければなりません。このために我々の病院ではアボット社の検査機器を導入しました。 コロナウィルスの蔓延防止のためには無症状のうちに、潜伏期のうちに感染者を突き止めなければなりません。これまでのPCR検査では、結果が出るのに1-2日かかってしまい、外来にきた感染者をいったん自宅に帰してしまうことになります。 この装置があれば、わずか13分でPCR検査並みの検出感度でコロナの診断ができます。

アボット社の開発したコロナウィルス核酸検出装置
ちくさ病院でも連日フル稼働しているが、弱点は1検体ずつしか処理できないことだ。集団感染の大規模検査には向いていない。

また、ファイザー社製ワクチンの配布を受け入れるためのディープフリーザーも設置しました。

-80℃に冷やせるディープフリーザー
4月にちくさ病院に設置し、いつワクチンが到着してもいいようにキンキンに冷えていたが、ワクチンが届いたのは6月だった。

2021年の2月にファイザー社のワクチンが初めて日本に到着し、ワクチンが来るのが早いか、第4波が来るのが早いか、やきもきしていましたが、残念ながら先に到着したのは第4波でした。

変異株

第4波が到着したときから、医療関係者の間では「なんとなく、おかしい。」という感触がありました。
これは珍しいことではなく、実はパンデミックの波というのは、到来するごとに感触が違うのです。第2波は第1波に比べて患者さんの重症化が少なく、ウィルスが弱体化したのでは、と言われていました。 第3波は第1波と同じぐらい重症化し、「なんだ、やっぱり弱体化してないじゃん。」と、がっかりしましたが、病院がコロナウィルス感染症の治療について経験を蓄えていたので、ある程度重症化を予防したり、死亡率を低下させることができました。 しかし、第4波はこれまでで最も手強い波となりました。 まず、これまでは軽症で治っていた若者が、どんどん重症化していきます。また、いったん重症化すると回復まで時間がかかります。 3月に余裕のあった市内の感染症病床は4月には急速に埋まり、5月の名古屋市のWEB会議ではイラついた病院院長たちの怒号が飛び交うまでになりました。
変異ウィルスが上陸してきたのです。

追い込まれた状況では、こんな状況に追い込んだ犯人探しが始まります。
「世界一病床があるのに医療崩壊するのはおかしい。」「民間病院がコロナの患者を受け入れないのが悪い。」「市や県は何をしているのだ。」「俺達には、ワクチン接種にさける人手はない。」「次から次へと入院してくる。在宅医療の医療機関は何をしているのか?少しは在宅で患者を診てほしい。」マスコミもコロナの治療にあたっている医療機関も次第にヒステリックになってきます。
「在宅医療の医療機関にも、入院できなくて待機している感染者のフォローをしていただいています。そうしていただいた上で、現在の状況となっています!」保健所の担当者が一生懸命説明しますが、説得している保健所自身もこの状況の中でクタクタのはずです。
日本は病床が多いのになぜ、コロナ受け入れ病床が足りないのか。理由は至極簡単です。日本は世界一高齢者が多いからです。 これは裏を返すと、病気を持っている人が多いということで、コロナが流行する前から病院は常に満室でした。 そこへコロナが降って湧いてきて、今入院している人を追い出してコロナ専用病床を作ろうといっても、おのずから限界があるのです。 今、世界中でコロナ、コロナと騒いでいますが、病気をして死にかけている人はコロナ患者さん以外に大勢いますから。

ワクチン

このような切迫した状況の中、ついにワクチンがとどきます。
2021年2月に日本に上陸し、我々の病院も4月にディープフリーザーを設置しましたが、長い間ワクチンは届かず、フリーザーはずっと空っぽでした。 ファイザー社がワクチンを提供してくれないのです。 これは資本主義の原則なのかもしれませんが、相手が困っていれば困っているほど、高い値段で売りつけたくなるものなのでしょう。 そこで(ここからは私の推測ですが)、菅首相が4月15日に訪米し、バイデン大統領に日本の窮状を訴えると、怒った大統領がワクチン製造の特許を公表するようにファイザー社に詰め寄りました。 世界に先駆けて成功したワクチンの製造法をタダで公開しろ、と脅迫されてはたまりません。 ファイザー社は大慌てで日本にワクチンを輸出することにしました。

米国大統領ジョー・バイデン
Good job man! (やるじゃないか、オッサン)。おかげで、助かったぜ。

ワクチンについて、簡単に説明します。ワクチンは本来、開発に4-5年かかる性質のものですが、今回造られたRNAワクチンは米国のワープスピード計画によって、わずか1年で製造されました。 95%という非常に有効性の高いワクチンを短時間で作成したという実績は、米国の高い技術力を示しています。 いっぽう、日本は自国でワクチンを製造することに成功していません。 それはなぜかと言うと、まず第一に、米国は国防費でワクチンを製造しているからです。ウィルスは生物兵器であり、それに勝利するために米国は戦費を調達しました。 ワクチン開発にかける費用が、日本と米国では桁違いなのです。 また、日本ではワクチンの副反応に対する批判が激しく、製薬会社も厚生労働省もリスクのあるワクチン開発に後ろ向きです。 最後に、たとえワクチンが完成したにしても、日本では感染者が少なすぎて第3相臨床試験がおこなえず、ワクチンの効果を判定できません。

RANワクチンの技術を開発したハンガリー出身の研究者ケイト・カリコ。
研究の重要性が理解されず研究費を打ち切られたり、さんざんひどい目に遭いながらmRNAに関する研究を続けてきた。
ノーベル賞が確実視されている。

RNAワクチンが人体でどのように効果を発揮するか、ということについても簡単に説明します。 RNAはタンパク質を作る設計図で、その設計図を脂でできたカプセルでくるんだものがRNAワクチンです。
RNAワクチンを注射すると、体内にある樹状細胞という細胞に取り込まれ、設計図(RNA)にしたがってコロナウィルスの一部分(スパイクタンパク質)が合成されます。 樹状細胞は細胞の表面にスパイクタンパク質を表示し、「こんな敵が攻めてきたよ!」と免疫細胞にメッセージを送ります。 そのメッセージを受け取ったリンパ球が中心となって、コロナウィルスをやっつける抗体が造られます。

6月にようやく、第4波が沈静化し、沖縄を除く地域で非常事態宣言が解除されました。
これから夏の行楽シーズンを迎えて第5波が訪れるのは確実です。
ワクチン接種が間に合うか、第5波の到来が早いか、オリンピックの成功と第5波の感染抑制の実績をひっさげて、政府自民党は総選挙に臨みたいはずです。
このイベントもいよいよ佳境を迎えてきました。

すき焼き

2021年4月コロナウィルスの第4波がまん延するなか、私は税理士さんとすき焼きをつついていました。
非常事態宣言のなかなので、お酒が飲めないのが残念でしたが、人形町今半のお肉は美味でした。特に美味しく感じたのは、その食事が税理士さんの奢りだったからです。
遡ること1年前、私と税理士さんはある賭けをしました。この時期はちょうど、日経平均株価が2万円を回復した時期だったと思います。 今後の資産運用の方針について、税理士さんと意見が真っ二つに割れました。この頃彼は、娘の教育のために香港を離れ、ロンドンに転居していました。 中国やイギリスの景気の悪さを見ると、今後日経平均は再び下落して3月の安値16,358円を割り込むだろう、というのです。この意見には承服できませんでした。 リーマンショックの反省から、日銀は大規模金融緩和を始めています。 悪いことにこの時期、日経225の裁定取引は大幅に売り長となっており、マーケットは日経平均株価の下落を予想した外国人投資家による空売りがパンパンに膨れ上がっていました。 これらの売り玉が金融緩和で踏み上げられれば、我々が抱えている日経平均インバースETNはタダ同然になってしまいます。 私はインバースETNの処分を提案しましたが、結局、意見はまとまらないまま、日経平均が2020年中に16,358円を割り込んだら私が、割り込まなかったら税理士さんが食事を奢ることになりました。

その後結局、日経平均株価は16,358円を割り込むことなく、めでたくすき焼きにありつくことができたという訳です。 日経平均が20,000円を超えた直後、私は手持ちのショート(売り玉)をすべて清算し、出来た資金でポートフォリオをすべてロング(買い玉)へ変更しましたが、税理士さんはその後もショートを続け、かなりの損害を被ったようでした。 数億円か、十数億円か、もしかしたら数十億円かもしれませんが、まぁ、大丈夫でしょう。 今日も彼の財布には黒いクレジットカードがキュンキュンに詰まっています。 すき焼きの代金を支払おうと、慌ててカードを一枚引っぱり出したら、つられて出てきた他のカードをまき散らしてしまいました。
床一面にちらばったブラックカードを眺めながら、自分より資産運用の下手な人がいることに少しホッとしている自分に気が付きました。